「技能実習制度は、これからどう変わるのだろう」「新しい育成就労制度では、企業に何が求められるのだろう」と疑問に感じている人事・採用担当者も多いのではないでしょうか。
育成就労制度は、従来の技能実習制度を発展的に解消し、外国人材の育成と人材確保を目的として創設される新たな制度です。受入れ企業には人材を雇用するだけでなく、計画的な技能育成、日本語能力の向上支援、適正な労務管理などが求められます。
本記事では、育成就労制度が創設された背景、技能実習制度や特定技能制度との違い、転籍の仕組み、企業が施行前に整えるべき体制について解説します。
※本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいています。制度の運用要領や分野別基準は更新される可能性があるため、申請や受入れを行う際は、出入国在留管理庁などの公式情報をご確認ください。
育成就労制度とは?技能実習制度との違いを解説

育成就労制度は、外国人を原則3年間受け入れ、就労を通じて特定技能1号の水準に相当する技能を持つ人材へ育成する制度です。技能実習制度に代わる仕組みとして、2027年4月1日から運用が開始されます。
技能実習制度が国際貢献や開発途上地域への技能移転を主な目的としていたのに対し、育成就労制度では、日本国内の人手不足分野における「人材育成」と「人材確保」が制度目的として明確に掲げられています。制度目的と実際の就労実態を一致させようとしている点が、大きな変更点です。
育成就労制度が創設された背景
技能実習制度については、制度上の目的と実態の乖離、本人の意向による転籍が原則として認められていないこと、監理団体や受入れ企業によって支援・監理の質に差があることなどが課題として指摘されてきました。
こうした課題を踏まえ、政府の有識者会議で制度の見直しが進められました。その後、育成就労制度の創設を含む改正法が2024年6月14日に成立し、同年6月21日に公布されています。
新制度では、外国人を労働者として適切に保護しながら、一定期間の就労を通じて技能と日本語能力を高め、特定技能1号への移行につなげる仕組みが整備されます。
技能実習制度から変わる主なポイント
技能実習制度と育成就労制度の違いは、名称の変更だけではありません。制度目的、転籍、受入れ分野、監理体制、特定技能制度との関係などが見直されます。
特に重要なのは、育成就労制度が特定技能1号への移行を見据えた制度として設計されている点です。外国人本人にとっては、技能や日本語能力を段階的に高めながら、日本でのキャリアを形成する道筋が従来より明確になります。
| 比較項目 | 技能実習制度 | 育成就労制度 |
| 主な目的 | 開発途上地域等への技能移転 | 人材育成と人材確保 |
| 基本的な期間 | 技能実習の段階に応じて設定 | 原則3年 |
| キャリアの方向性 | 技能移転を前提とした制度 | 特定技能1号への移行を想定 |
| 本人意向による転籍 | 原則として認められない | 一定の要件を満たす場合に可能 |
| 監理を担う機関 | 監理団体 | 許可を受けた監理支援機関 |
| 受入れ対象 | 技能実習の対象職種・作業 | 育成就労産業分野と業務区分 |
育成就労の対象分野や業務区分、受入れ人数、分野独自の要件については、基本方針と分野別運用方針に基づいて定められます。企業は、自社の業務が対象となるかだけでなく、各分野に設けられた上乗せ基準も確認しなければなりません。
育成就労制度と特定技能制度の関係
育成就労制度は、特定技能制度と連続性のある制度として設計されています。原則3年間の育成就労を経て、必要な技能水準と日本語能力を身に付けた外国人が、特定技能1号へ移行することが基本的なキャリアルートです。
ただし、育成就労を3年間修了すれば、自動的に特定技能1号へ移行できるわけではありません。原則として、特定技能1号への移行に必要な技能試験と日本語試験に合格する必要があります。
分野によっては、求められる試験や技能水準、日本語能力、受入れ企業に課される要件が異なります。採用を検討する企業は、自社が該当する分野の運用方針を個別に確認することが重要です。
| 項目 | 育成就労 | 特定技能1号 |
| 制度の位置づけ | 就労を通じた人材育成 | 一定の専門性・技能を持つ人材の就労 |
| 在留期間 | 原則3年 | 原則として通算5年まで |
| 技能水準 | 就労を通じて特定技能1号水準を目指す | 分野別の技能試験等で確認 |
| 日本語能力 | 入国時・就労開始時などの基準あり | 原則として分野ごとの日本語要件を満たす |
| 家族帯同 | 原則不可 | 原則不可 |
| 転職・転籍 | 一定の要件のもとで可能 | 同一分野などの要件を満たせば可能 |
育成就労と特定技能1号を合わせると、原則として最長8年間の就労が想定されます。ただし、在留資格の変更や更新には、それぞれの制度要件を満たす必要があります。
育成就労制度の転籍ルール

育成就労制度の大きな変更点の一つが、外国人本人の意向による転籍を一定の条件で認める仕組みです。
技能実習制度では、受入れ企業の倒産や重大な法令違反など、やむを得ない事情がある場合を除き、本人の希望だけで実習先を変更することは原則として認められていませんでした。
育成就労制度では、やむを得ない事情がある場合に加え、本人の意向による転籍も認められます。ただし、一般の労働者とまったく同じように、いつでも自由に転職できるわけではありません。
本人意向による転籍の主な条件
本人意向による転籍では、主に次のような条件が設けられます。
- 同一の業務区分内で転籍すること
- 転籍前の企業で一定期間就労していること
- 一定水準の技能を有していること
- 一定水準の日本語能力を有していること
- 転籍先が受入れ機関としての要件を満たしていること
- 転籍先で新たな育成就労計画の認定を受けること
転籍までに必要となる就労期間は、1年を基本としながら、分野によって1年を超える期間が設定される場合があります。具体的な期間や条件は分野別運用方針で確認する必要があります。
企業に求められる定着対策
転籍が一定の条件で認められるようになることで、企業には賃金だけでなく、労働時間、職場環境、教育体制、相談しやすさなどを含めた総合的な定着対策が求められます。
外国人が転籍を選択する原因を一律に防ぐことはできません。しかし、雇用条件を明確に説明し、適切な労務管理を行い、仕事や生活上の問題を早期に相談できる体制を整えることは、企業と外国人の双方にとって重要です。
転籍を防ぐことだけを目的にするのではなく、「働き続けることを本人が選びやすい職場」をつくる視点が必要になります。
監理支援機関の役割と受入れ企業の責任
育成就労制度では、技能実習制度の監理団体に代わり、許可を受けた監理支援機関が監理・支援を担います。
監理支援機関は、育成就労計画の作成に関する指導、受入れ企業への監査や訪問指導、育成就労外国人からの相談対応、転籍支援などを行います。また、監理支援機関の許可要件には、独立性や中立性を確保するための仕組みも設けられています。
ただし、監理支援機関へ業務を委託すれば、受入れ企業の責任がなくなるわけではありません。外国人と雇用契約を結び、日々の指導、賃金の支払い、安全衛生管理、労働時間管理などを行うのは受入れ企業です。
監理支援機関を選ぶ際の確認事項
監理支援機関を選ぶ際は、料金だけで判断しないことが重要です。次のような項目を比較しましょう。
- 自社の対象分野に関する知識と支援実績
- 監査や訪問指導の実施体制
- 外国人が理解できる言語での相談体制
- 日本語学習や生活面に関する支援内容
- 転籍が必要になった場合の対応方針
- 受入れ企業への法令遵守支援
- 費用の内訳と追加料金の有無
- 問題発生時の連絡・報告体制
正式な許可を受けているかどうかに加え、自社と外国人の双方に対して適切な支援を行える体制があるかを確認する必要があります。
育成就労制度が企業にもたらすメリット
育成就労制度は、人手不足に直面するすべての企業が自由に利用できる制度ではありません。対象分野や受入れ要件を満たす必要があり、受入れ人数も分野ごとの方針に基づいて管理されます。
そのうえで適切な運用体制を構築できれば、企業には複数のメリットが期待できます。
計画的に人材を育成できる
育成就労制度では、認定を受けた育成就労計画に基づいて人材を育成します。そのため、採用後に現場任せで教育するのではなく、習得すべき技能、指導方法、評価方法などを事前に整理する必要があります。
教育内容を可視化する過程で、作業手順や安全ルールを見直す機会にもなります。指導者によって説明が異なる状態を改善し、外国人にも日本人にも理解しやすい教育体制を構築することが重要です。
特定技能への移行を見据えた雇用ができる
育成就労を修了し、必要な要件を満たした外国人は、特定技能1号への移行を目指せます。
企業側から見ると、育成就労期間中に業務や職場環境を理解した人材が、特定技能外国人として引き続き働く可能性があります。ただし、移行後も本人には職場を選択する権利があるため、継続雇用は保証されません。
企業は、技能試験や日本語試験への対応だけでなく、本人が将来のキャリアを描ける環境づくりにも取り組む必要があります。
外国人雇用の管理体制を見直せる
育成就労制度の導入準備は、企業が既存の労務管理や教育体制を点検する機会になります。
雇用条件の説明方法、賃金計算、勤怠管理、安全衛生、ハラスメント相談、住居や生活に関する案内などを整理することで、外国人だけでなく、すべての従業員が働きやすい職場づくりにつながる可能性があります。
受入れ企業が注意すべき課題
育成就労制度は人材確保の選択肢となる一方、企業には相応の責任と負担が伴います。
教育・指導体制の構築が必要になる
外国人を採用しただけで、自然に技能や日本語能力が向上するわけではありません。現場で誰が指導するのか、どのように習得状況を確認するのか、試験に向けた学習時間をどのように確保するのかを事前に決める必要があります。
専門用語や暗黙の了解に依存した指導では、認識のずれが起こりやすくなります。写真、図、動画、やさしい日本語、多言語資料などを活用し、伝わる指導方法を整備することが大切です。
転籍を前提とした人材管理が必要になる
企業が採用費や教育費を負担しても、一定の条件を満たした外国人が転籍を希望する可能性はあります。
これを一方的な損失と捉えるだけでは、制度の趣旨に沿った運用は困難です。賃金、労働時間、休日、仕事内容、評価基準、相談体制などを定期的に見直し、働き続けたいと感じられる職場をつくる必要があります。
分野ごとの要件を確認する必要がある
育成就労制度では、すべての分野に同一の要件が適用されるわけではありません。
対象業務、受入れ人数、転籍制限期間、日本語能力、受入れ企業に求められる実績や体制などについて、分野ごとの上乗せ基準が設けられる場合があります。一般的な制度解説だけで判断せず、必ず自社が該当する分野の最新資料を確認してください。
外国人本人にとってのメリットと注意点
育成就労制度では、外国人を単なる労働力として扱うのではなく、技能を習得しながらキャリアを形成する労働者として受け入れる考え方が明確になっています。
特定技能1号への道筋が明確になる
育成就労では、原則3年間で特定技能1号水準の技能と日本語能力を身に付けることを目指します。
必要な試験に合格し、在留資格変更の要件を満たせば、特定技能1号として引き続き日本で働くことが可能です。本人にとっては、育成就労期間だけでなく、その後の就労を見据えて技能を身に付けられることがメリットになります。
一定の条件で転籍を選択できる
本人意向による転籍が認められることで、外国人が自らのキャリアや就労環境を考え、勤務先を変更できる余地が広がります。
一方で、転籍には就労期間、技能、日本語能力、業務区分などの条件があります。希望すれば必ず転籍できるわけではないため、本人に対して制度を正確に説明することが必要です。
労働条件を十分に理解する必要がある
外国人本人は、雇用契約の内容、賃金、控除、労働時間、休日、仕事内容、住居費などを理解したうえで来日・就労する必要があります。
企業や監理支援機関は、本人が理解できる方法で条件を説明し、契約書に書かれていない費用負担や不利益な取扱いが生じないよう注意しなければなりません。
技能実習制度から育成就労制度への経過措置
育成就労制度は2027年4月1日に開始されますが、同日を境に、すべての技能実習が直ちに終了するわけではありません。
施行日前に認定を受けた技能実習計画に基づき、施行日時点で技能実習を行っている外国人については、経過措置により施行後も技能実習を継続できる場合があります。
また、施行日時点で技能実習1号を行っている人は、一定の条件のもとで技能実習2号へ移行できる仕組みがあります。技能実習3号への移行には、施行日時点における実習期間など、別途条件が設けられています。
現在の技能実習生が自動的に育成就労へ変更されるわけではありません。既存の技能実習生を受け入れている企業は、本人ごとの実習段階、技能実習計画の認定日、施行日時点の在留状況を確認する必要があります。
育成就労制度の施行までに企業が準備すべきこと
育成就労制度の運用開始は2027年4月1日です。受入れを検討している企業は、制度開始後に慌てて対応するのではなく、事前に自社の対象可否や運用体制を確認しておく必要があります。
自社の業務が対象になるか確認する
まず、自社の業種だけでなく、外国人に担当してもらう具体的な業務が育成就労の対象となるかを確認します。
同じ業界に属していても、すべての業務が対象になるとは限りません。分野別運用方針と業務区分、分野ごとの上乗せ基準まで確認することが重要です。
受入れ目的と人材計画を整理する
単に「人が足りないから採用する」という考え方では、計画的な育成は難しくなります。
どの業務を担当してもらうのか、3年間でどの技能を身に付けてもらうのか、特定技能1号への移行後にどのような役割を想定するのかを整理しましょう。
指導担当者と相談担当者を決める
現場の技能指導、勤怠・労務管理、生活相談、日本語学習支援などを一人の担当者だけに集中させると、負担が大きくなります。
部署ごとの役割を決め、外国人本人が相談内容に応じて適切な担当者へアクセスできる体制を整えることが大切です。
雇用条件と費用を明確にする
賃金、手当、労働時間、休日、控除、住居費、光熱費、通勤費などを整理し、本人に理解できる方法で説明できるようにします。
育成就労制度の受入れ費用には、採用方法、送出国、監理支援機関、住居、日本語教育などによって差が生じます。一律の相場だけで判断せず、費用の内訳と契約条件を個別に確認する必要があります。
監理支援機関を比較する
監理支援機関の支援内容や料金体系は、それぞれ異なる可能性があります。
複数の候補を比較し、自社の分野に対応できるか、外国人からの相談を適切に受けられるか、監査や指導を実効的に行えるかを確認しましょう。
既存の社内規程を点検する
就業規則、賃金規程、寮・社宅の利用規則、ハラスメント相談制度、安全衛生マニュアルなどが外国人にも適切に適用されるかを確認します。
外国人専用の不利益なルールを設けるのではなく、日本人と外国人を公平に取り扱いながら、言語や生活環境の違いに応じた支援を行うことが基本です。
育成就労制度による社会的な変化
育成就労制度の創設は、日本の外国人雇用政策が「一時的な技能移転」から「就労を通じた育成と人材確保」へ転換することを意味します。
外国人本人が一定の条件で転籍できるようになることで、企業は選ばれる職場づくりをこれまで以上に求められます。採用できるかどうかだけでなく、適正な待遇、育成環境、相談体制を備え、本人に継続して働く勤務先として選ばれるかが重要になります。
また、育成就労から特定技能1号への移行が基本的なキャリアルートとして位置付けられることで、外国人雇用を短期的な人手不足対策ではなく、中長期の人材戦略として捉える必要性が高まります。
一方で、制度を適正に機能させるためには、受入れ企業、監理支援機関、送出機関、行政機関がそれぞれの責任を果たすことが欠かせません。制度が変わるだけで、労務管理や人権保護に関する問題が自動的に解決するわけではない点にも注意が必要です。
まとめ
育成就労制度は、技能実習制度を発展的に解消し、人材育成と人材確保を目的として2027年4月1日から開始される新たな外国人雇用制度です。
原則3年間の就労を通じて特定技能1号水準の人材を育成し、その後の特定技能1号への移行を目指します。また、一定の条件を満たした場合には、本人意向による転籍も認められます。
受入れ企業には、育成就労計画に基づく技能育成、適正な労務管理、日本語能力の向上支援、相談体制の整備などが求められます。監理支援機関に任せきりにするのではなく、企業自身が雇用主として責任を持って運用することが重要です。
育成就労制度の詳細は、基本方針、分野別運用方針、運用要領、分野ごとの上乗せ基準によって定められます。受入れを検討する企業は、自社が対象となるかを確認したうえで、教育、労務管理、生活支援、費用計画を段階的に整備していきましょう。




