特定技能人材から「1~2か月ほど母国へ帰りたい」と申し出を受け、退職するつもりなのか、在留資格に影響しないのかと不安になる企業担当者は少なくありません。外国人材の一時帰国は、日本人社員の帰省と比べて期間が長くなることもあり、現場の人員配置にも影響します。
一時帰国の理由は、家族との再会、冠婚葬祭、出産や育児への対応、治療、行政手続などさまざまです。また、技能実習を終えて特定技能1号へ移行する人のなかには、日本の公的年金に関する「脱退一時金」を請求するため、いったん帰国するケースもあります。
ただし、特定技能人材が一時帰国すれば、誰でも脱退一時金を受け取れるわけではありません。雇用関係や住民票を維持したまま短期間帰国する一般的な休暇と、年金の被保険者資格を喪失して脱退一時金を請求する帰国は、分けて考える必要があります。
この記事では、特定技能人材が一時帰国する主な理由、脱退一時金の仕組み、再入国手続、休暇や人員配置に関して企業が確認すべき事項を解説します。
※本記事の内容は作成あるいは更新時点の情報に基づいています。年金、在留資格、再入国、税務などの取扱いは個別事情によって異なるため、実際の手続では日本年金機構、出入国在留管理庁、市区町村、社会保険労務士、行政書士、税理士などへご確認ください。
特定技能人材が一時帰国する主な理由

特定技能人材の一時帰国を「退職の前触れ」と決めつけるのは適切ではありません。母国に家族や生活基盤がある外国人にとって、一定期間の帰国は生活上必要な場合があります。
まずは本人から帰国の目的、期間、再来日の予定を確認し、会社が対応すべき手続と本人が行う手続を整理しましょう。
家族との再会や冠婚葬祭
外国人材は、日本で働いている間、配偶者、子ども、両親などと長期間離れて暮らしている場合があります。年末年始や母国の祝祭日に合わせて帰国し、家族と過ごしたいと考えることは自然です。
親族の結婚式、葬儀、法要などは、本人や家族にとって重要な行事です。日本からの移動に時間と費用がかかるため、数日間ではなく、数週間の休暇を希望するケースもあります。
帰国理由を必要以上に詮索するのではなく、業務調整に必要な範囲で期間と予定を確認する姿勢が大切です。
出産・育児や家族の看護
配偶者の出産、子どもの世話、親の介護や看護などを理由に帰国することもあります。特定技能1号では、家族帯同が原則として認められていないため、家族に関する重要な出来事が母国で発生すれば、本人が帰国する必要性は高くなります。
帰国期間が長くなる場合は、有給休暇だけで足りるのか、欠勤や休職をどう扱うのかを確認しなければなりません。企業の就業規則や雇用契約を基に、本人へ分かる言語で説明しましょう。
治療や母国での手続
持病の治療、歯科治療、健康診断などを母国で受けるために帰国する人もいます。日本語での受診に不安がある場合や、以前から診てもらっている医師へ相談したい場合などが考えられます。
パスポートや身分証明書の更新、家族関係に関する手続、銀行や不動産に関する手続など、本人が母国へ行かなければ完了しにくい用事もあります。
企業側には一見分かりにくい理由でも、本人にとっては帰国が必要な場合があります。帰国期間や復職予定を確認し、業務上の対応を話し合いましょう。
技能実習修了後の区切りとして帰国する
技能実習2号などを修了し、その後に特定技能1号へ移行する人が、制度上・生活上の区切りとしていったん母国へ帰るケースがあります。
長期間会えなかった家族と過ごすほか、荷物や書類を整理し、再来日に向けた準備を行うこともあるでしょう。
また、このタイミングで技能実習期間中の厚生年金保険について脱退一時金を請求し、その後、特定技能1号として日本へ戻るケースも実務上見られます。日本年金機構も、技能実習1号・2号の3年間を終えて一時帰国し、その後に特定技能1号として再入国する例を公式Q&Aで説明しています。
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脱退一時金とは何か
脱退一時金は、日本国籍を持たない人が日本の公的年金制度から外れ、日本国内に住所を持たなくなった場合に、一定の条件のもとで請求できる制度です。
「外国人が帰国すれば年金保険料をすべて返してもらえる制度」ではありません。支給要件、対象期間、請求期限が定められており、受給後の年金加入記録にも影響します。
脱退一時金を請求できる主な条件
厚生年金保険の脱退一時金を請求するには、主に次の条件をすべて満たす必要があります。
- 日本国籍を持っていない
- 厚生年金保険や国民年金の被保険者ではない
- 厚生年金保険などの加入期間が合計6か月以上ある
- 老齢年金の受給資格期間である10年を満たしていない
- 障害年金などを受ける権利を有したことがない
- 日本国内に住所を有していない
- 所定の請求期限を過ぎていない
日本年金機構によると、原則として、日本国内に住所を有しなくなった日などから2年以内に請求する必要があります。
一時帰国すれば必ず請求できるわけではない
ここは企業と本人の双方が特に注意したい点です。
特定技能人材が雇用関係を維持し、有給休暇などを使って一時的に母国へ帰るだけであれば、通常は厚生年金保険の被保険者資格も維持されます。この状態では「公的年金制度の被保険者ではない」という脱退一時金の条件を満たしません。
また、転出届を提出せず、住民票を日本に残したまま、再入国許可やみなし再入国許可を使って出国した場合も、脱退一時金を請求できないことがあります。日本年金機構は、再入国予定であっても転出届を提出し、日本国内に住所を有しない状態であれば請求できる一方、転出届を出さずに出国した場合は請求できないと案内しています。
したがって、「特定技能人材が休暇を取って1~2か月帰国すること」と、「技能実習等の終了後に被保険者資格を喪失して脱退一時金を請求すること」は同じではありません。
技能実習と特定技能の間で請求するケース
日本年金機構は、技能実習1号・2号の合計3年間を修了した後に一時帰国し、その後、特定技能1号として5年間在留する予定の人について、脱退一時金を2回に分けて請求する方法を案内しています。
具体的には、技能実習終了後の一時帰国時に技能実習期間分を請求し、特定技能1号の就労を終えて帰国した際に特定技能期間分を請求するという考え方です。
この公式Q&Aからも、技能実習から特定技能へ移る途中で一度帰国し、脱退一時金を請求するパターンが制度上想定されていることが分かります。
ただし、「特定技能人材の一時帰国の多くが脱退一時金目的である」という割合を示す公的統計は、確認できません。一時帰国の理由は個人ごとに異なるため、企業は先入観で判断せず、本人へ確認する必要があります。
支給額の計算には上限がある
脱退一時金は、本人が支払った年金保険料の全額がそのまま戻る制度ではありません。
2021年4月以降に厚生年金保険等の加入期間がある場合、支給額の計算に使われる月数の上限は60か月、つまり5年です。加入期間や標準報酬月額などを基に支給額が計算されます。
本人が8年間日本で働いてから一度だけ請求しても、8年間の全期間が支給額へ反映されるとは限りません。このため、日本年金機構は、技能実習3年と特定技能1号5年について、それぞれの終了時に分けて請求する例を案内しています。
請求後は対象期間を将来の年金へ使えない
脱退一時金を受け取るかどうかは、短期的な金額だけで判断すべきではありません。
脱退一時金の支給を受けた場合、その計算の基礎となった日本の年金加入期間は、将来の年金受給資格や年金額の計算に使えなくなります。社会保障協定によって相手国の年金加入期間と通算できる場合も、脱退一時金を受けた期間は通算できません。
今後日本で長く働く可能性がある人や、社会保障協定の対象国出身者は、脱退一時金を受け取る場合と、加入記録を残す場合の違いを理解する必要があります。
企業が本人に対して「受け取った方が得だ」と断定するのは避け、必要に応じて日本年金機構や専門家への相談を案内しましょう。
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脱退一時金の請求と企業の雇用関係

脱退一時金を目的とする帰国では、単なる休暇として扱えないことがあります。年金の被保険者資格を喪失するには、退職などによって社会保険の資格を失うことが一般的だからです。
企業は、本人が「一時帰国」と表現していても、雇用契約を維持するのか、いったん退職して再雇用するのかを明確に確認する必要があります。
雇用を続けたまま請求できるとは限らない
有給休暇や休職によって雇用関係が続き、厚生年金保険の資格も継続している場合、脱退一時金の「被保険者ではない」という要件を満たしません。
そのため、技能実習を終えて脱退一時金を請求し、その後に特定技能1号として戻るケースでは、技能実習終了時に雇用契約と社会保険資格が終了し、その後、特定技能として新たな雇用契約を結ぶ形が考えられます。
具体的な資格喪失日や再雇用手続は雇用形態によって異なるため、社会保険労務士や年金事務所へ確認しましょう。
退職と再雇用の条件を明確にする
いったん退職して帰国する場合、再び日本へ来れば自動的に同じ会社へ戻れるわけではありません。
企業と本人の間で、次の事項を確認する必要があります。
- 現在の雇用契約の終了日
- 社会保険の資格喪失日
- 最終給与や未消化の年次有給休暇
- 住居や社宅の退去
- 帰国予定日
- 再来日の予定
- 新しい雇用契約の条件
- 在留資格申請の担当者
- 航空券などの費用負担
- 再雇用できなくなった場合の取扱い
口頭で「帰ってきたらまた雇う」と伝えるだけでは、認識の違いが起こります。確定している内容と未確定の内容を分け、本人が理解できる言語で説明しましょう。
脱退一時金の受給を雇用条件にしない
脱退一時金は本人が条件を確認し、本人の意思で請求する制度です。
企業や紹介会社が、脱退一時金を受け取ることを採用や再雇用の条件にしたり、受給額の一部を手数料として徴収したりすることは避けなければなりません。
本人から相談を受けた場合は、制度の概要と公式の相談先を案内し、申請するかどうかの判断は本人に委ねるのが適切です。
一時帰国で必要となる再入国手続
特定技能人材が日本の在留資格を維持したまま一時帰国する場合は、再入国許可またはみなし再入国許可を確認する必要があります。
手続を誤って出国すると、それまでの在留資格と在留期間が消滅する可能性があるため、企業や登録支援機関も事前に確認しましょう。
1年以内ならみなし再入国許可を利用できる場合がある
有効な旅券と在留カードを所持する中長期在留者が、出国後1年以内に再入国する場合は、原則として、通常の再入国許可を事前に取得せず「みなし再入国許可」を利用できます。
ただし、在留期限が出国から1年以内に到来する場合、みなし再入国許可の有効期限はその在留期限までです。出国時には、再入国出国記録で再入国予定の意思を示す必要があります。
本人が「1年以内に戻れば問題ない」とだけ理解していると、在留期限を見落とす可能性があります。旅券、在留カード、在留期限、帰国日程を事前に確認しましょう。
再入国許可なしで出国すると在留資格が消滅する
再入国許可やみなし再入国許可を利用せずに出国した場合、それまでの在留資格と在留期間は原則として消滅します。
再び日本へ来るには、新たに査証を取得し、上陸審査を受ける必要があります。
企業は、空港での手続を本人だけに任せるのではなく、出国前に登録支援機関や行政書士などと確認することが大切です。
一時帰国期間も特定技能1号の通算期間に含まれる
特定技能1号の在留期間は、原則として通算5年までです。
特定技能1号の在留資格を維持したまま、再入国許可やみなし再入国許可で一時帰国している期間も、原則として通算在留期間に含まれます。日本で働いていない期間だからといって、5年の計算が停止するわけではありません。
1~2か月帰国する場合は、在留期限だけでなく、特定技能1号の通算期間への影響も説明しましょう。
一時帰国を申し出られた企業の対応
一時帰国の希望を受けた企業は、最初から拒否するのではなく、理由、期間、雇用関係、在留手続を順番に確認します。
本人の私生活へ過度に介入せず、会社の業務と法的手続に必要な事項を整理することが重要です。
帰国の目的と期間を確認する
まず、次の内容を本人へ確認しましょう。
- 帰国の主な目的
- 出国予定日
- 再入国予定日
- 有給休暇、欠勤、休職の希望
- 雇用契約を継続する予定か
- 脱退一時金を請求する予定か
- 住民票の転出届を出す予定か
- 再入国許可の方法
- 在留期限
- 帰国中の連絡先
脱退一時金を目的としている場合は、通常の休暇とは前提が異なります。雇用と社会保険の資格を維持したまま請求できると思い込んでいないかを確認してください。
就業規則に沿って休暇を調整する
年次有給休暇の取得は、国籍に関係なく労働基準法に沿って扱います。
長期の休暇で業務に支障が生じる場合は、本人の希望を聞いたうえで取得時期や期間を調整します。有給休暇だけで足りない期間について、欠勤または休職とするかは、就業規則や労使の合意に基づいて決めましょう。
外国人だから長期休暇を一律に認めない、または無条件で認めるのではなく、社内ルールと個別事情を踏まえて公平に判断することが重要です。
帰国中の業務を引き継ぐ
一時帰国が決まったら、担当業務、顧客対応、機械や設備の管理、進行中の案件を整理し、引継ぎを行います。
特定の外国人材だけが分かる業務を放置すると、帰国中に現場が止まる可能性があります。一時帰国への対応をきっかけに、業務手順の文書化や複数担当制を進めることも有効です。
再来日後の勤務を確認する
再入国予定日が近づいたら、航空便、再入国手続、健康状態、出勤予定日を確認します。
本人の帰国中に在留期限や雇用条件が変わる場合は、必要な申請や契約を事前に進めます。再雇用の場合は、在留資格上の就労が可能となる前に働かせないよう注意しましょう。
一時帰国を巡るよくある誤解

特定技能人材の一時帰国では、脱退一時金、再入国、在留期間について誤解が生じやすくなります。
企業担当者も制度を正しく理解し、本人へ断定的な説明をしないことが重要です。
一時帰国すれば脱退一時金を受け取れる
一時的に出国するだけでは請求できません。
公的年金の被保険者ではないこと、日本国内に住所を有していないこと、加入期間や請求期限など、複数の条件を満たす必要があります。
脱退一時金は支払った保険料の全額が戻る
脱退一時金は、加入期間や標準報酬などに基づいて計算される一時金です。
支払った保険料の全額が返還される制度ではなく、計算対象となる月数にも上限があります。
一時帰国中は特定技能1号の5年に数えられない
特定技能1号の在留資格を維持している限り、再入国許可で出国している期間も原則として通算5年に含まれます。
長期帰国によって働いていない期間があっても、自動的に在留可能期間が延長されるわけではありません。
会社が脱退一時金を申請してあげられる
脱退一時金は、原則として本人が請求する給付です。
企業は必要書類の準備や公式情報の案内を支援できますが、本人に代わって受給を決めたり、金額を保証したりするべきではありません。
一時帰国前の企業向けチェックリスト
- 帰国理由と予定期間を確認した
- 一時的な休暇か、退職を伴う帰国かを確認した
- 雇用契約を継続するか確認した
- 社会保険資格の取扱いを確認した
- 脱退一時金を請求する予定があるか確認した
- 有給休暇、欠勤、休職の扱いを説明した
- 在留カードと旅券の有効期限を確認した
- 在留期限を確認した
- 再入国許可またはみなし再入国許可を確認した
- 帰国中の連絡先を把握した
- 業務の引継ぎを行った
- 住居や社宅の取扱いを決めた
- 帰国中の給与や社会保険料を説明した
- 再雇用の場合は条件を書面で整理した
- 再来日後の出勤予定日を確認した
- 必要に応じて登録支援機関や専門家へ相談した
まとめ
特定技能人材が一時帰国する理由は、家族との再会、冠婚葬祭、出産、看護、治療、行政手続などさまざまです。技能実習を終えて特定技能1号へ移行する人が、脱退一時金を請求するためにいったん帰国するケースもありますが、その割合を示す公的統計はなく、すべての一時帰国を脱退一時金目的と考えるのは適切ではありません。
脱退一時金を請求するには、公的年金の被保険者ではないこと、日本国内に住所を有しないこと、加入期間や請求期限などの条件を満たす必要があります。雇用と社会保険資格を維持したまま休暇として一時帰国するケースとは区別し、受給後は対象となった年金加入期間を将来の年金へ利用できなくなる点も本人へ案内する必要があります。
企業は帰国の希望を一律に拒否したり、脱退一時金の請求を勧めたりするのではなく、帰国目的、雇用関係、休暇、社会保険、住民票、再入国手続を個別に確認しましょう。本人、企業、登録支援機関、専門家が情報を共有し、帰国から再就労までの手順を明確にすることが、トラブルを防ぎ、特定技能人材との信頼関係を保つために重要です。



